ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Hüvasti, NSVL サヨナラ、ソ連

エストニア映画 (2020)

ソビエト連邦からエストニアが独立する直前、“共産主義体制下でのエストニア共和国” における10歳の少年の体験を、少年の身の回りの狭い世界に限定して描いた作品。少年の両親、少なくとも父は イングリア人〔1920~40年代に ソ連から迫害を受けた少数民族〕。従って、その娘であるヨハンナと、“父親不明” の息子ヨハネスもイングリア人。話すのはロシア語。ヨハネスが早産で生まれた時、免疫不全の新生児用のボックスに “同居” することになったヴェラの母はリディア。夫は空軍少佐。ヴェラの兄にあたる息子はジェナ。話すのはロシア語。このチェチェン人の一家とヨハネスの一家との絡みが映画のメインテーマとなる。エストニアの映画だが、ほとんどの会話はロシア語で、エストニア語の字幕は、ロシア語の部分のみに入っている。ソ連を風刺した映画なのに、ロシア語がメインで、たまにエストニア語が入る構成には、少し違和感を覚える。ここで、話題を変え、エストニアにおけるロシア人について少し書いてみたい。エストニアの最東端にある第3の都市ナルヴァは、タルトゥ大学(エストニア)のサイトによると、欧州連合の都市の中で最もロシア語を話す人が多い(市民の97%がロシア語を母国語としている)。2014年3月のロシアによるクリミア占領後、BBCは早くも2015年に、「ドネツク〔2022年2月21日にプーチンがドネツク人民共和国の独立を一方的に承認した〕で起きていること(ドネツク在住のロシア系市民による反政府運動の活発化)がナルヴァでも起きるか?」について、地元で取材している。それによると、「エストニアのロシア人は、ロシアのロシア人より経済的に恵まれている。しかし、ナルヴァの住民の収入は、一般的なエストニア人より凡そ3分の1少ない。地元の不満は増大する可能性があり、エストニア政府は、クレムリンがそれを利用して州の弱体化を図っていると信じている。政府の広報部長は、ロシアのTV局は敵対的で、事件をでっち上げたり、誇張したりしていると述べる。ただ、ウクライナのように、蜂起して離脱を主張する第五列(不穏なグループ)が結成されているとは信じていないとも語る。しかし、不安な兆候も見られる。広報部長は、ナルヴァの若者たちに、彼らのリーダーは誰かと尋ねた。彼らの答えは? ウラジーミル・プーチン。『もし、プーチンがこの人たちに、敵対的な行動を取れと言えば、何が起きるか誰も分からない』と部長は語った」。軍事的緊張こそないものの、現在のウクライナ情勢と何と良く似ていることか〔ウクライナでは、かって紹介した『Povodyr(導き手)』の紹介で書いたように、ソ連により700~1000万人が「根絶」された。ナチスによるホロコースト(推定600万人)を超える大虐殺なのに、ドイツと違い、今のロシアには、その “過去の過ち” に対する反省の色のかけらすらない〕。ロシアという国は、どこまで独善的・挑発的な専制主義国家なのであろう。こうした情勢が続くと、ロシア映画の紹介など二度とするものかと思いたくなる。

ソ連邦エストニア共和国の首都タリンの大学生ヨハンナは、性に対する奔放な性格が祟り、父親不明の胎児を身籠もってしまう。しかも、予定より3ヶ月早い出産。そのため、免疫機能のない新生児用のボックスに入れられる。そこに、ロシア空軍少佐の妻リディアが生んだ女児も早産で新生児用のボックスが必要となるが、病院には1つしかない。そこで、リディアがヨハンナに頼み込み、2人を同じボックスに入れる。大学生のヨハンナには赤ん坊の養育はできないので、ヨハンナの息子ヨハネスは、ソビエトに住む祖父母が引き取る。ただ、彼らが住んでいる場所は、放射能で汚染され、地図にも乗っていない レニングラード3という極秘地区。ヨハネスは10歳になるまで、そこで暮らす。その最後、自分の今後をめぐる母と祖母の口論に嫌気がさしたヨハネスは、禁断の海に入ってしまい、多量の放射能を浴び、一部の前髪を残し、頭髪がすべて抜けてしまう。この事故の責任は母と祖父母に降りかかり、祖父母はレニングラード3の家を失い、娘と一緒にタリンに赴くと、ヨハンナは大学を退学させられ、同時に、寮から追い出される。アパートは、当局が管理していて、すぐに借りることなどできない。路頭に迷いかけた一家を救ったのは、ヨハネスが初登校した小学校で、リディアの息子と娘に偶然出会い、母親同士が “あの時の人” だと気付いた幸運。お陰で、一家は、アフガニスタンに侵攻したソ連軍の少佐付の航空士の部屋を、帰国するまで使わせてもらうことになった。それに安心した母ヨハンナは、将来のためを思い、官吏に賄賂を渡す形でフィンランドへの単身での出稼ぎ労働を許可される。ある意味、母を失ったヨハネスに続き、リディアの夫と航空士はアフガンで墜落死し、2人の子供ジェナとヴェラは、父を失う。ただし、航空士が死んだため、一家はそのまま住み続けることができるようになる。父をアフガニスタンで失ったジェナは、ヨハネスとヴェラが親しくなるのを妬いて、自分がソ連兵、ヨハネスをアフガンのテロリストにし、戦争ゲームに没頭する。そして、ある日、非常に危険な花火を使い ヨハネスに自爆テロをやって見せろと迫る。ヨハネスが拒否すると喧嘩となり、その際の偶然からヴェラの片目が “失明の可能性のある重傷” を負う。それに怒ったリディアは、それまでの態度を一変させ、ジェナの嘘を信じ、すべてをヨハネスのせいにし、元航空士の部屋からの退去を迫る。そこに、偶然、途中帰国した母は、フィンランドのお金を部屋代として渡すことで、経済的危機に陥ったリディアにOKさせる。一方、ヨハネスは、母が持ち帰ったバナナを始め、ソ連に住む人々にとっては垂涎の食品やスニーカーを見せびらかして、生徒達から別格視される。リディアには内緒で、2人の子供とヨハネスの間の交流は元に戻り、ヴェラとは親密さを増す。そして押し寄せるソ連邦崩壊の第一波。ヨハンナとヨハネスの母子は、エストニア独立の前日、フィンランドに向けて旅立つ。

ヨハネス役はNiklas Kouzmitchev。情報は皆無。頭を剃り上げての出演は大変だったと思う。後半で “カツラ” を被ったシーンは、カツラなのか、それとも、髪の毛を剃る前に撮影したのか? 頭髪がある方が幼く見えるので、案外後者かも。

あらすじ

エストニア・ソビエト社会主義共和国の首都タリンの大学生ヨハンナが、集団分娩室に入っている。ヨハンナが、あまりの苦しさに悲鳴を上げると、主任看護婦が、「いいこと、お嬢さん、ソ連では、女性は静かに出産するの」と注意すると、他の2人の産婦の方を向き、「私が 『フッ!』 と言ったら、力むのよ」と言う(1枚目の写真、矢印はヨハンナ)。ヨハンナは、歯を食いしばり、声を出さないよう力むと赤ちゃんが出て来る。しかし、それを一目見た看護婦の顔色が変わり、「何て小さいの」。そして、ヨハンナには何も説明せず、赤ちゃんを白い布で包むと、早々に部屋を出て行こうとする。ヨハンナが、「なぜ、産声を上げないの?」と訊くと(2枚目の写真)、「早産よ。彼には免疫機能がないの。肺が発達していないから、大きい声では泣けない」と言われる。ヨハンナが後を追おうとすると、分娩室のドアが閉められ、新生児と別れ別れにされる。ヨハンナは、窓を開け、病院の外で待っていた母に向かって、「子供を取られちゃった!」と叫ぶ。さっそく、両親が建物内に入り、「受付」前を通って左の通路に行こうとすると、そこには、柵があって入れない。受付の女性が、「そこは、医者と患者専用ですよ」と言う。そこに、空軍少佐が赤いバラの花束を持ってやって来て、「開けろ!」と命令し、ヨハンナの両親も一緒にくっついて中に入る。3枚目の写真は、免疫機能のない新生児用のボックスに入れられた息子を見る両親とヨハンナ。ヨハンナは、母に向かって 「もし、この子が死んでも、父無し子を恥じなくて済むわ」と言い、恐らく妊娠中にも何度となくあったであろう口論が始まりそうになるが、少し酔っ払った父は、「死ぬようには見えんな。石棺で眠るレーニンのようだ〔赤の広場にあるレーニン廟には、防腐処理されたレーニンが石棺に入っている〕。彼の父親は、きっとレーニンの親戚だ」と言う〔この発想から、新生児の名前は、Johannes Leninovitš Tarkkinenとなった。ヨハネスがファーストネーム、タルキネンが家族名〕

そこに、ドアの外から、「早産児用の保育器がないとは、どういうことだ! 俺の娘が死んでしまう!」という、先ほどの少佐の怒鳴り声が聞こえてくる。「何とかしろ、さもないと、上層部を呼ぶぞ!」。ドアが開き、婦長が、「保育器が足りないから、あなたの保育器を使います」と言い、それを聞いたヨハンナはドアを閉め、「私の息子には免疫機能がないのよ!」と断固拒否。「すぐドアを開けなさい!」。すると、部屋を仕切るガラス窓の所に立った女性が、看護婦に黙るように言い、ヨハンナに向かって、「お願い、助けて」と すがるように頼む(1枚目の写真)。そして、次のシーンでは、2人の赤ちゃんが1つのボックスの中に入っている。仲よく顔を見合っている2人(2枚目の写真)を見たヨハンナの父は、「ソビエトのロマンスだ」と言う。女の赤ちゃんの母は、「何とお礼を言ったらいいか」と言うと、手を差し出して、名乗る。「Lidia Džhoharevna Durdebajeva」。母も、「Johanna Väinovna Tarkkinen」と言い、2人は握手する。ヨハンナの父は ウォッカの入ったスキットルを取り出すと、「愛を祝って1杯」と言い、キャップに酒を入れて飲む。少佐も、嬉しそうにスキットルを受け取ると、「Tamerlan Ahmedovitš Durdebajev」と名乗り、父も 「Väino Eerovitš Tarkkinen」と名乗る〔いずれも、長くて難しい名前ばかり〕。そして、少佐も、「愛に!」と言い(3枚目の写真)、スキットルから直接飲む。

病院を無事退院した赤ちゃんは、ヨハンナと両親に付き添われて出生届けを提出に行く。係の中年の女性が、「ここには、子供は1月に出産予定だったと書かれてますね」と訊く。「ご覧のとおり、彼は10月に生まれました」(1枚目の写真)。「なぜ、父親の名前の欄が『不明』なんです?」。父が、「父親のことは、あまり知らんのです」と弁解し、強気のヨハンナは、「そこに、『ろくでなし』と書いて下さい。私は気にしません」と言う。それを聞いた、係の女性は、「あなたは、子供を育てるアパートすら持ってないわ。子供は、児童福祉部門に委ねるべきでしょうね」と言い、すぐに受話器を取る。父は、“賄賂無しには何もできない国になっていた” ソ連の慣習通り、こっそり50ルーブル紙幣を1枚渡す(2枚目の写真、矢印)〔当時は、1ドル= 0.9ルーブル。1ドルは約225円。従って、現在の約16000円〕。女性は笑顔になり、「これで解決ね。アパートも確保しましょう」と言い、3人から感謝されるが、次の言葉は、「でも、時間がかかりますよ。あと5年。まだ建ってませんから」(3枚目の写真)。「5年?」。「10年かも」。そこで、ヨハンナが赤ちゃんを連れていったのは、それまでいた大学の寮。入口には、「ÖÖRAHU ALATES 23(午後11時からは静粛に)」と書かれている。両親は、こんな所でまともな子供育てができる心配し、結果として、赤ちゃんを自分達で育てることにする。

両親がヨハンナの息子ヨハネスと一緒に住むことにしたのは、タリンの東北東約250キロにある自宅。ここで、ナレーションが入る。「ここは、レニングラード3と呼ばれる、地図にも記載されていない場所で、そこには、話題にしてはならない秘密の原子力設備があった。公式には単なる “生地染色工場” だったが、海で泳ぐことは禁止されていた。ソビエト連邦は恒久的な物資不足に苦しんでいたが、レニングラード3で欠けていたのは自由だけだった」。Leningrad 3でネット検索すると該当は1件だけ、それはサンクト・ペテルブルグ、元レニングラードの西南西約65キロにあるレニングラード原子力発電所3号機のこと。この発電所では、1975年11月28日に、1号機で軽水炉の冷却材喪失事故が発生し、炉心から5キロの地点での放射線量は毎時6 mSv(ミリ・シーベルト)に達した。チェルノブイリ原発事故は、毎時2~6 mSvが測定されたため、事故の翌日に原子炉の町プリピャチの市民45,000人が避難したので、これと同レベルの放射漏れ事故が、その10年半前に起きていた。しかも、レニングラード原子力発電所の75キロ西には、この映画を製作したエストニアがあったにも関わらず、事故は秘密にされた。下の写真の左側は、レニングラード原子力発電所。右側は、後で登場する “レニングラード3”。ともに、海岸沿いにあり、煙突が2本立っているところも似ている。因みに、右の写真のロケ地は、すぐ後で詳しく述べるが、エストニアのシッラマエ(Sillamäe)。レニングラード原子力発電所の西南西90キロにあるロシアに近い工業都市。

レニングラード3は、地図上に存在しない閉鎖された町なので、道路には国境のように検問所が設けられ、近くの住民でも出入りはできなかった。ただし、ヨハネスも、住民である両親が引き取ったので、ゲートは開く(1枚目の写真)。そのあと、「НЕ БОЛТАЙ(口外するな)」と書かれた大きな絵の立っている公園が映り(2枚目の写真)、カメラが左に旋回すると、レーニン像の向こうに伸びる立派な通りが見える(3枚目の写真)。この通りは、前述のエストニアのシッラマエにある(4枚目のグーグルマップの定点写真、レーニン像は、写真のフラワーポットの上に臨時に置いたもの)。このシッラマエは、7本前に紹介したエストニア映画『Rain(ライン)』(2020)でも舞台となった。ただ、このユニークで美しい通りは、前作では登場しなかった。

先程までのシッラマエのシーンでは、まだ赤ちゃんだったヨハネスだが、その直後のシーンでは5歳くらいになっていて、海岸にいる。そして、この時点では、観ていて意味の分からないナレーションが入る。「僕にはまだ前髪があったので、地元の子供たちの格好の標的となった」。そして、2本煙突に向かって走って逃げ出す(2節前の右側で使った写真)。そのあとを地元の子供たちが追いかけるが、全員が丸禿だ(1枚目の写真)。この2本煙突も、シッラマエ火力発電所の煙突〔『ライン』では、ツリーハウスを作るための板を集める場面で出てきた。その時はグーグルマップはカットしたが、ここでは2枚目に定点写真を載せる〕。すると、放射能防護服を着たヨハネスのコルヤ伯父さんが、悪ガキどもを追い払ってくれる(3枚目の写真)〔全員が丸禿なのは、放射能で汚染された海で泳いだからという設定なのだが、それほど海水の汚染度が高いのなら、海岸にいるだけで危険なのに… 監督兼脚本家の放射能に対する認識が甘いとしか言いようがない〕

ナレーション:「家では、フィンランドのラジオを聞き、KGB対策で 蛇口を出しっ放しにした。そうやって僕らはチェルノブイリの真実を知った。コルヤ伯父さんは、傷病休暇を取ることでグラウンド・ゼロ〔原子炉崩壊地点〕への派遣を回避した」。伯父は、誰もいない場所に行き、酒を飲んでから、大きな石を自分の左足に叩きつける。「母は、1ヶ月に一度、僕に会いに来た。母は、いろいろなボーイフレンドと一緒にやって来て、彼らは その度に プレゼントをくれた」。検問所の手前まで 祖父母の車で連れて来られたヨハネスは、検問所の反対側で停車したバスから降りて来た母に向かって走り寄る。小さなヨハネスはゲートをくぐって母に抱き着く(1枚目の写真)。「僕の最初の友だちは、クロコダイルジーナだった〔『「クロコダイルジーナとその友」』の主人公のワニの人形〕。その後、映画館で、母とボーイフレンドとヨハネスの3人が、映画館でクロコダイルジーナの漫画を観るシーンが入る。「普通、人々は自家用車を手に入れるのに何十年も待たなければならなかったが、母のボーイフレンドの一人が 僕にモスクヴィッチをくれた〔モスクヴィッチはソ連の小型自動車メーカーの名前だが、この場合、もらったのは、足で蹴って動かすベビーカー〕。検問所のレニングラード3 側の坂でモスクヴィッチに乗ったヨハネスは、勾配の勢いで、ゲートの下を突破してタリンに行こうとしたが、すぐに停止を命じられる(2枚目の写真)〔子供なので、罪になった訳ではないが、坂をどうやって上ってレニングラード3まで戻ったのだろう?〕。そして、さらに5年が経過。検問所の手前で母を待ち受けるヨハネスは、主役を演じるNiklas Kouzmitchevに変わっている(3枚目の写真、手に抱いているのは5年前にもらったクロコダイルジーナ)。いつも通りバスが停車するが、降りて来たのは、パンクロック風の髪形・服装の、別人のような母だった。ヨハネスは前より大きくなっているので、ゲートをくぐって会いにいくことはできず、母が許可を得て中に入るまで抱擁はお預けとなる。

問題のシーン。一家は、放射能で汚染された海水から数10メートルと離れていない砂浜に遊びに来る〔前にも書いたが、あり得ない〕。砂浜に横になったヨハンナとヨハネスの間には、密約ができている。「僕らの秘密、お祖母ちゃんに話した?」。「まだよ。そのうちするから」。すぐ横にいるコルヤ伯父は、放射能防護服を着ている。ヨハネスの祖父は、コルヤ伯父に、「コルヤ、アフガニスタンに送られるみたいだな? 足を引きずってるのに。もう片方の足も折らないとな」と、冗談半分で言う。伯父も、「心臓発作でも起こさないと」と、冗談で応える〔結局、アフガニスタンに行かされる〕。ヨハネスは、「アフガニスタンはチェルノブイリと同じくらい危険なの?」とコルヤ伯父に訊く。「いいや。俺は魔法の服を着てるから、それが守ってくれるんだ。レニングラード3の海でだって泳げるぞ」と言うと、伸縮ゴムホースの付いたマスクを被り、びっこを引きながら海に向かう(1枚目に写真、矢印)。ここは、5年前にヨハネスが丸禿の少年達に追い掛けられた場所。遠くに例の2本煙突も見える。右端に立っている赤い警告板には、「В ВОДУ ЗАХОДИТЬ ЗАПРЕЩЕНО!(海に入ることは禁止されている!)」と書かれ、その下の黄色の三角形は万国共通の放射線看板。伯父がいなくなると、ヨハンナが、母に、「ヨハネスを連れてくわ」と、“秘密” を打ち明ける。「連れてくって、どこへ?」。「タリンよ」。「どこに住むの? あのぞっとする学生寮?」。母は、娘の生き方を批判した後、「ヨハネス、ここで十分満足してるわ。友だちだって一杯…」と母に言いかけると、ヨハネスは 「ジーナ〔ワニの人形〕が一緒に来るよ。僕にとって唯一の友だちだ」と反論。それを聞いた祖母は、「こんなにいろいろやってあげたのに、お祖母ちゃんから離れたいの?」とヨハネスを責める(2枚目の写真)。それに対し、母は、「私の子供よ、ほっといて!」と食ってかかる。そのケンカに嫌気がさしたヨハネスは、「タリンまで泳いでいくから!」と叫ぶと、海に入って行く(3枚目の写真、矢印は伯父)。伯父がすぐに助け、病院まで運んで行き、除染タンクに投げ込んで汚染された海水を少しでも落とす。それでも、ヨハネスの体に向けたガイガーカウンターは、高い放射能を示す連続音を出す。それから、どのくらいの日数が経過したかは不明だが、ヨハネスは、筒状の装置の中に入れられている。髪の毛は後ろ半分が完全に抜け、前髪もまばらになっている〔脱毛は 急性放射線症状の一つ〕

僕の被毒の調査を 母が要求すると、当局は母の育児能力を疑い始めた」。ここで、2人は、役所のような場所で3人の役人から最終審判を受ける(1枚目の写真)。「僕は 放射能のため 髪の半分を失い、母は KGBにより髪を剃られた」。ここで、場面は変わり、4人が祖父の車に乗り、検問所を通ってレニングラード3から出て行く。「コルヤ伯父さんはアフガニスタンに送られ、祖父母は家を失った」。4人は、ヨハンナの学生寮の一部を仕切って暮らすことにし、朝、ヨハネスを学校に行かせようと、母が、“共産党のジュニアメンバーであることを示す赤いスカーフ” を首に巻こうとしていると、祖母が、巻き方が間違っていると文句を言って、母を押しのける。母は、祖母のやり方が気に食わず、スカーフを巻き直そうとする。すると、ドアが開き、男が、「ヨハンナ・タルキネン」と呼ぶ(2枚目の写真)。母がドアまで行くと、1通の手紙を渡される(3枚目の写真、矢印)。それを読んだ母は、「私、大学を退学させられちゃった。ここも出ないといけない」と言う。

寮を追い出された4人は、ヨハンナの両親の車にすべての荷物を乗せ、取り敢えず、ヨハネスを学校まで連れて行き、「行ってらっしゃい」と送り出す(1枚目の写真)。ただし、その先、3人に行くあてがあるわけではない。学校に入って行くヨハネスのナレーション。「レニングラード3での生活は1950年代のままだったが、新しい環境では1980年代が、まさに躍動していた」。「あと数分で、体育館に集合しなさい」というアナウンスが流れる。校舎を通り抜けた反対側の校庭を見たヨハネスは、何人かの生徒がレーニン像に悪さしているのを見つけると(2枚目の写真、矢印はレーニン像の頭)、走り寄り、「おい、ヨハネス・レニノヴォイチ・タルキネンだ。像を傷付けるのは止めろ!」と抗議する(3枚目の写真)〔手に持っているのは、なぜか母が別れ際に渡したカーネーション〕

像から降りた少年の1人は、他の4人に、「何 言ったか分かるか?」と訊く〔これまでヨハンナの一家が話していた言葉は、ロシア語。ここはタリンの小学校なので、子供達はエストニア語で話している〕。他の4人:「ううん」。「エストニア語、話せないんか? 蒙古人みたいな話し方だな」。「レーニンにあんなことしちゃダメだ」。レーニンと言う単語は理解したので、少年はヨハネスを突き倒し、足で何度も蹴る。それを遠くで見た兄妹の2人は、助けようと駆け付ける。最初に着いたリボンを2つ付けた小太りの少女は、「やめなさいよ」と止める(2枚目の写真)。少年は、「黙れ、デブ。ここで生まれたくせに、エストニア語も話せないんか」と言い、少女に頬を叩かれ、少女を突き飛ばして地面に転倒させる。年上の兄が走り寄ると、少年の頬を思い切り強くつまみ(3枚目の写真)、「このクソ野郎。地理を学んでないのか? 俺たちはチェチェン人だ。エストニア語を覚える必要はない」と強く言う〔この時代、エストニアはソビエト連邦を構成する15の共和国の1つに過ぎないので、第一公用語はロシア語〕

助け起こされたヨハネスは、2人に 「助けてくれてありがとう」とお礼を言い、カーネーションを少女に贈る。「いいのよ。あんなクソどもは、無視すればいいの」。「クソ」って何。「エストニア語で 『クソ』 のことよ」。ここでまた、自己紹介。兄は、「僕は、Gennadi Tamerlanovits Durdebajev。妹はヴェラ」と言う。それを聞いたヨハネスは、「ジェナ、クロコダイルジーナみたいだ」と喜び、自分の名前を名乗る。今度はジェナが、「レーニンの子か?」と驚く。「お祖父ちゃんは、レーニンはすべての父無し子の父なんだって」と説明する。ヴェラ:「あなた、エストニア人じゃないの?」。「イングリア人だよ」。ジェナにとって、イングリア人の存在は初耳だった。その後、授業が終わり、3人は仲良く揃って階段を降りてくる。ヨハネスは早くもヴェラに首ったけだ(1枚目の写真)。3人が玄関まで行くと、そこには、行き場のない母と祖父母が待っていて、さっそくヨハネスにキスする。ヴェラとジェナの母も迎えに来ていて、そこで鉢合わせたヨハンナと、ヴェラの母(リディア)は、相手が、10年前の “あの時” に会った人だと気付き(2枚目の写真)、お互いに抱き合う。「僕とヴェラは、保育器の中でもう会っていたんだ」。そのことを母親から聞かされたヴェラは、ヨハンナを感謝の目で見る。その後、空から見た学校の俯瞰映像に変わる(3枚目の写真)。この超モダンな建物は、タリンの南約50キロにあるRapla(ラプラ)という小さな村にあるKEK-i haldushoone(KEK管理棟)で、1977年に建築家Toomas Reinによって設計され、2015年に文化財に指定された地上2階建て八角形の建物(4枚目のグーグルマップの定点写真)〔タリンにある訳でもないし、学校でもないので、単なる見栄えのするロケ地〕

2つの家族を乗せた祖父の車は、リディアの高層アパートに向かう。狭い車内に入りきらないので、ヨハネスは、屋根の上に乗せた “お気に入りのモスクヴィッチのベビーカー” に跨る(1枚目の写真)。リディアは、アパートに入ると、「ここは、夫の航空士ティモシェイエフのもので、3部屋と共同キッチンがある。私たちの3部屋は向こうにあるの。夫がアフガニスタンから戻って来るまで使われたらどう? 過密な寮で暮らすより いいと思うわ」と言う。それを聞いたヨハンナの母は、「実は、そこも追い出されたんです」と 正直に言う。「なら、是非ここにいらっしゃい。病院では、とてもお世話になったから」と、親切に言ってくれる(2枚目の写真)。「僕のタリンでの新しい生活は、夢のようだった。部屋の持ち主がアフガニスタンから戻って来ない限り、ヴェラのお母さんは地下に美容室を持っていて、そこにあったものは、戦争ごっこの小道具になった。僕は、いつもアフガンの敵兵を演じたが、それはヴェラと一緒にいられる いい口実になった」。リディアは、ヨハネスが事故で髪を失くしたと知ると同情し、ヴェラは何とか元に戻らないかと、ヨハネスの頭に大量のクリームを塗り付ける(3枚目の写真)。リディアは 「ジョンソン・エンド・ジョンソンさえあれば」と、悔しがる〔ジョンソン・エンド・ジョンソンはアメリカの総合医薬・化粧品メーカーで、新型コロナウイルスのワクチンも2021年2月からアメリカで使用されているが、日本には入って来ていない〕

リディアは、ヨハンナの髪もセットするが、あまりに悲しそうな表情なので、理由を訊く。ヨハンナは、「私、仕事を見つけないと。でないと、暮らしていけない」と、悩みを打ち明ける。そして、ある時、ヨハンナの前で、ラジオから次のようなフィンランド政府の見解が聞こえてくる。「これらの人々は、スウェーデンの統治下にあって、そこに送られた本当のフィンランド人です。今や、フィンランドに戻ることが許可されるべきです」。その曖昧な内容にもかかわらず、ヨハンナは、それがイングリア人のことを指しているものだとピンと来る〔イングリア人は、17世紀のスウェーデン統治下に、イングリア地域(現在のレニングラード州)に移住したサヴォ人とカレリア人の子孫。17世紀の終わりには、イングリア地域の人口の90%がイングリア人を含むフィンランド人だった。大北方戦争(1700-21年)でロシアがスウェーデンと戦って勝利し、バルト海の覇者となると、イングリアの人々はスウェーデンからロシアに併合された。サンクトペテルブルクが軍事要塞から帝都として整備されると、入り込んできた貴族により、イングリア人は土地から追放された。しかし、最大の悲劇は、ソビエトの成立後に起きる。1930年代には総人口の3分の1が殺害され、残りもソ連邦の各地に強制移住させられた。1940年代には、「イングリアのジェノサイド」も行われる〕。それを聞いたヨハンナは、さっそくフィンランドでの働くことを許可してもらおうと、担当の部署を訪れる(1枚目の写真)。ヨハンナの意向を疑う担当者に、彼女は、フィンランドに戻るのではなく、タリンでアパートを買うために働きたいのだと必死に訴える。それを聞いた担当者は、如何にも汚職官僚らしく、ヨハンナを脅すために軍事施設のような場所に連れ出し、「海外旅行の許可を与えよう。条件がある。収入の4分の1を私に払うこと。期間は2年。息子はここに留まる」と条件を突き付ける(2枚目の写真)。そして、空港での別れのシーン。ヨハンナは、「戻って来るから」と息子に言い聞かせる(3枚目の写真)。「母は、西側からお土産を持って帰ると約束した」。

学校でのヨハネスとヴェラ(1枚目の写真)。その日は、記念すべき5月9日(ヨーロッパ戦勝記念日)だったので、ヨハネスのクラスの生徒達は体育館に集められ、担任から立ったままナチの強制収容所の記録映画を見せられる。その中に出てきた若いユダヤの女性が、母が恋しいヨハネスには、自分の母のように見えてしまい(2枚目の写真)、走って逃げ出す。ヨハネスは、祖父母と一緒に校長室に呼ばれる。しかし、責められたのはヨハネスではなく、子供には厳し過ぎる映像を見せた担任の方(3枚目の写真、中央が校長、左が担任、右が児童心理学者)。心理学者は、ヨハネスに、「何が怖かったの? ユダヤ人たちが…」と質問を始めると、校長が、「彼には通じん」と注意し、ロシア語で、「ヨハネス、彼女は、映画で何が怖かったんだと訊いてる。ユダヤ人たちかね?」と訊く。ヨハネスの返事は一言。「ママ」。祖母は、「彼の母はフィンランドで働いてます。一時的に」と補足する。児童心理学者:「子供を一人で放っておいて?」。「泣いたりしてません」。「泣きたければ、構わないのよ。それが出来ないのなら、遊びを通して感情を表現するの」と言うと、セラピー人形を2体(母とヨハネス)取り出して、遊んで見せる〔あとで、2体とももらえる〕

美容院で、ヴェラと母親がヨハネスの禿頭に苦戦していると、チャイムが鳴る。入って来たのは、白い花束を持った軍人。リディアが出て行くと、「タメルランは、勇敢な軍人であり、良き指揮官であり、真の同志でした」と言い、それを聞いたタメルランの妻は、悲しみのあまり、両手で顔を覆う(1枚目の写真)。「祖国は彼のことを決して忘れないでしょう」。そして、如何にも戦士を称えるような海辺の場所で、トランペットが吹奏され、遺骨の引き渡しが行われる(2枚目の写真)。この場所は、タリン郊外にあるMaarjamäe記念碑(エストニアの自由のために戦った人々の記念碑)にある儀式用の広場。3枚目はグーグルマップの定点写真。少将が、「我々も悲しんでいます」と言い、遺骨の入った箱をリディアに渡す。そして、「航空士ティモシェイエフ・ヴィクトル・イワノヴィチは親戚がいないため、あなたに託します」と言い、2つ目の箱も渡す(4枚目の写真、矢印は航空士の遺骨入れ)。ヴェラはヨハネスに抱き着いて泣き、それを、兄のジェナが嫌な顔をして見ている。「僕の夢は叶った。僕らはティモシェイエフの部屋を手に入れた」。

もう1つの問題のシーン。ヨハネスは、ジェナとヴェラ、プラス、あと2人と戦争ごっこ。ジェナが、ショットガン用のベルトのような形の “花火弾ベルト” をヨハネスに差し出す。「それ何?」。「体に巻き付けて、自爆するんだ」(1枚目の写真)。当然、ヨハネスは拒絶する。「メチャだよ。自爆なんかするもんか!」。「腰抜け。花火が怖いんか? 妹は、腰抜けなんかと遊ばせん」。「僕が戦いに勝ったら、ヴェラは僕のもんだ。いいね?」。ジェナは、花火を捨て、「お前には絶対勝てん。戦い方を知らないからな」と言うと、ヨハネスと、取っ組み合いの喧嘩を始める。それを見たヴェラは、「ジェナ、ここはコーカサスじゃないのよ。私が、遊ぶ相手を選べるわ!」と言い、邪魔する2人を押し倒し、兄の背中をつかみ、「ヨハナスに構わないで」と文句を言う(2枚目の写真)。しかし、強く引っ張った反動でヨハネスの脚が、地面に落ちていた花火の筒にぶつかると、そのショックで火花が一斉に爆発する(3枚目の写真)。

病院で、祖母の横に座ったヨハネスが、火傷を負った中指の治療を看護婦から受けていると、そこにリディアがやって来て、「これ、あなたが思いついたそうね」と、ジェナの嘘を信じてヨハネスを責める(1枚目の写真)。そんなことより、ヴェラが心配なヨハネスは、「ヴェラはどう?」と訊く。「答えなさい! このバカげた遊び、誰が思いついたの?!」。「僕じゃない。ジェナだよ」。卑怯なジェナは、「お前だ。ヴェラを感心させるためだ」と嘘を付く(2枚目の写真)。あんなに優しかったのに、態度を急変させたリディアは、ジェナに 「家で話しましょ」と言うと、今度は看護婦に、「ちょっといいかしら。指なら治るわよ」と勝手なことを言って去らせる。そして、ヨハネスを犯人と決めつけ、「あなた、ヴェラの人生を破滅させたの理解してる? 誰が片目の女の子を欲しがるのよ?」と、一方的に責める。ヨハネスは、「僕が欲しいよ」と言うが、母は、「夫は死んだ。娘は目を失うかもしれない。どうして、こんな目に遭わなくちゃいけないの」と泣き崩れる。祖父は、ジェナに、「君は父親の死に動揺しているので、戦争ゲームをしてる。いったい、なぜ、ヨハネスが自爆ベルトなんか付けると思ったんだ? ジェナ、私を見ろ。あれは、本当にヨハネスの思い付きだったのか?」と、男対男で訊く(3枚目の写真)。ジェナは頷くことで、真に卑劣な嘘つきとなった。それを見たリディアは、「これでおしまい。一緒に遊ぶことは、もう許しません」と 犠牲者のヨハネスに向かって言う。ジェナの母親らしい傲慢な女性だ。

その夜、フィンランドで老人ホームの掃除婦として働いている母からヨハネスに電話が掛かってくるが、日中のことで頭に来たヨハネスは、受話器を叩き壊す。そして、眠ったヨハネスは、ヴェラの夢を見る(1・2枚目の写真)。ヴェラが「しーっ」と、唇に手を当て、ヨハネスのお腹に巻いた自爆花火が爆発する寸前、ヨハネスの毛布が祖母によってまくり取られ、ヨハネスは夢から覚める(3枚目の写真)。「学校に遅れるわよ」。そう言って、目線をヨハネスの下腹部に移した祖母は、「何てこと」と驚き、ヨハネスも頭を起こして見てみる(4枚目も写真)〔状況から、夢精〕。「2分で用意なさい」。祖母から話を聞いた祖父は、「ヨハネス、お前は、もう自分で服を着てもいい年になったと、お祖母ちゃんは行ってたぞ」言う。祖母は、スカーフを結びながら、「悪い知らせがあるわ。リディアは、私たちに ここから出て行って欲しいって」と話し、その後で、「今夜、びっくりすることがあるわよ。あなた、きっと大喜びするわ」と、良い知らせを後に回して教える。

翌朝、授業が終わって階段で出会った3人。ヨハネスは、悪くもないのに、「ヴェラ、ほんとうにごめん」と謝る。反省の色もないジェナは(1枚目の写真)、ヨハネスを突き飛ばし、ヴェラに向かって、「あっちへ行け!」と強く命じる。ヴェラがいなくなると、今度はヨハネスに、「まだ いたのか。お前とは、金輪際遊ばんのだ!」と、壁に向かって押す。ヨハネスは、「ヤキモチ焼いたから、あんなベルト作ったんだ!」と言いながら、反対側の壁までジェナを突き飛ばし、壁に押し付ける。ジェナは、「俺たちに近づくな!」と怒鳴ると、その場から逃げるように去っていく。ヨハネスが校庭を見ると、大勢の若者が集まっていて、レーニン像には真っ赤な服が被せてある(2枚目の写真、矢印)。エストニアの旗を持った若者達は、「エストニアに自由を」と叫んでいる。校長は、石をぶつけられ、校舎内に逃げ込もうとして玄関で転倒する。それを、外に出て見ていたヨハネスは、“最初にレーニン像について注意した時の少年” に見つかり、「こいつ、レーニンの親戚だ!」と大声で叫ばれ、若者を交えた5人に袋叩きにされる(3枚目の写真)。

アパートに戻ったヨハネスを迎えたのは、アフガニスタンに行かされてから音信不通だったコルヤ伯父。ヨハネスを見た伯父は、「何てこった」と驚く〔残り少ない髪がぐしゃぐしゃ〕。それを見た祖父は、「もう一度、髪を切らないとな」と言う。コルヤは、ヨハネスの頭をツルツルに剃り上げる。3人の前の食卓の上には、空になったウォッカの瓶とレモネードの瓶が置いてあるので、祖父も伯父も酔っ払っている。ヨハネスは、残ったレモネードを 空のウォッカの瓶に入れ、「乾杯」と言ってガブ飲みする(1枚目の写真)〔伯父の変な格好は何なんだろう?〕。コルヤ伯父は、ヨハネスに、「お祖父ちゃんは、お前さんが、女の子に興味があるって言ってたぞ」と言う(2枚目の写真)。「そんなことない」。「じゃあ、男の子に興味があるのか?」と言い、キスする真似をする〔伯父は、ゲイになった?〕。伯父は、「なあ、ヨハネス、2人でダンスを教えてやる」と言うと、酔っ払った祖父を立たせ、「ファースト・キスの前に、ダンスの仕方を知らないとな」と言って、2人で踊り始める。最後には、ヨハネスも加えて 3人でダンスを始める(3枚目の写真)。

すると、後ろのドアが開き、「サプライズ!」と言いながら、母が入ってくる。そして、兄のコルヤを見て、抱き着く。その後で、祖父が何かを隠しているのに気付き、祖父を押しのけると、そこには禿げ頭になったヨハネスがいた。次のシーンでは、母の食糧品で一杯になった母の大きな鞄が映る(1枚目の写真)。中でも目を引くのは、日本ではありふれた果物No.1のバナナ。ヨハンナは、自慢げにバナナを取り出す。祖父は、「ソビエトで バナナを口にする幸運に恵まれたら、目をつむって食べるんだ」と教える。「RUSSIA BEYOND」という日本語のサイトの、「ソビエト連邦で人々は何に行列を作ったのか」という2019年の記事には、「ほとんどの場合、ソビエト連邦のどの食料品店でも、バター、トマトジュース、カバノキのジュース、リンゴジュース、乾燥したキセーリ、缶詰、穀物、クッキー、パスタを買購入することはできたが、ソーセージ、チーズ、新鮮な肉や果物、特にエキゾチックなバナナなどは実際ほぼ買うことができなかった」と書かれている。ヨハネスは、生まれてから一度もバナナを見たことがなかったので、どうやって食べたらいいか分からず、皮を剥かずにそのまま口に入れ(2枚目の写真、矢印)、“何だこれ” と口から出す。伯父は、皮を剥きながら、「これを味わうまでに、人生の半分を生きてきたなんて」と言い、ひとかけらを大事そうに口に入れる。しかし、ヨハネスが一番喜んだのは、なぜかゴルビー〔ゴルバチョフの愛称〕人形(3枚目の写真)。祖父と伯父は、フィンランドの有名なLAPIN KULTA(ラピンクルタ)ビールの缶を開けると、至福の顔で味わう。伯父が最後にしたことは、海外の衛星放送が見られるようにするためのアンテナを、バルコニーに設置することだった(4枚目の写真)。母以外の4人は、西側の華やかで明るい放送を見て驚く。

突如として、僕は学校で “輝く星” になった」。ヨハネスが、バナナを食べながら校庭を歩いていると、立ち並んだ使徒達が羨ましそうに見ている(1枚目の写真)。ヨハネスが食べ終わったバナナの皮を放り投げると、キャッチした生徒が皮の香りを嗅ぐ。授業が始まり、担任が、「ソビエト連邦はその兄弟国を助けました。だから、私たちには彼らを占領者と呼ぶ権利がありますか? もちろんありません」と生徒達に訓辞する〔ウクライナを含め、ロシナの西に位置する国にとっては、残酷な占領者以外の何物でもない〕。その “洗脳的” な言葉を聞きながら、ヨハネスは、母からもらったフィンランドのDumleのチョコバーを食べていると(2枚目の写真)、教師に前に来るよう指示される。ヨハネスはLEDスニーカーで、教師の前に向かう(3枚目の写真、矢印)〔このシーンには無理がある。LEDスニーカーはアメリカのLA Gearが1992年に50ドルで発売を始めたもので、一方、エストニアの独立は1991年8月21日(このシーンはそれ以前)。だから、この時点でLEDスニーカーはまだ存在しない〕。教師は、ヨハネスの胸ポケットから、もう1本のチョコバーを取り上げると、「Dumle、ナチのチョコレートね」〔ナチとは何の関係もない〕と、嘘を生徒達に教え、自分のポケットに入れる〔後で、自分で喜んで食べるつもり?〕。その上で、「ヨハネス。君の母親は、ソビエトの子供に不必要な物を持ち帰ったのよ」と貶める。

ヨハネス、母、祖父母の4人は、校長に呼び出され、前と同じ2人が同席する。校長は、「我々は、ヨハネスの問題行動を非常に懸念している」と 母に向かって言う(1枚目の写真)。担任は、「彼は、レニノヴォイチの名を誇りに思っていましたが、今では、ジョンソン・エンド・ジョンソンに支援された西側が地球上の天国だと思っているようです」と言って笑う。ヨハンナは、「私がフィンランドで働いているから、悪い母親だと思ってるの? 息子は間違ったことを夢見るバカだと?」と、強い調子で反論。校長は、話題を逸らそうと、リディアから送られた 「ヨハネスがジェナを襲った」旨の苦情の手紙を取り出す〔ヨハネスが 年上のジェナを襲ったと考えること自体おかしい〕。それを聞いたヨハネスは、「ジェナが僕を襲ったんだ」と強く否定する。心理学者は、「ヨハネス、お母さんには、フィンランドに行かないで、ここにいて欲しい?」と訊く。ヨハネスは首を横に振る。「何が望みなの?」。「僕は西側に行きたい!」(2枚目の写真)。この禁句に、祖母は、すぐヨハネスの口を塞ぐ。校長ら3人は、処置なしと言った顔であきれる。心理学者が何かノートに書いたのを見た母は、「そこに何を書いたの?」と言いながら立ち上がると、ノートを奪って読む。そこには、「少年には父がいない」と書かれてあった。頭に来たヨハンナは、出て行こうと、ヨハネスを立たせる。校長は、「待ちなさい。その態度は何だ。警告する。未成年者委員会に連絡することも止むを得ん」と言うが、ヨハンナは、「勝手にすれば」と突っぱね、祖父母を残し、ヨハネスを連れてさっさと部屋から出て行く。

ヨハンナは、アパートに戻ると、リディアの部屋のドアをノックする。一方的に怒っているリディアは、ヨハンナに向かって、「あんた達が、許可なくここに住んでると通報してやる」と、強い調子で言う。ヨハンナは、「数ヶ月分の家賃、払うわ。現金で」と言う。「そんなの要らない。タメルランの恩給があるから…」。「冗談でしょ。ルーブルにはもう価値なんかない、トイレットペーパーと同じなのよ」〔1989 年秋に1 ドル=0.6ルーブルから6 ルーブルに、その後何度か切り下げられて1991年10月末には32ルーブルになっていたものが、さらに47 ルーブルに。そして 12月には92 ドルになった。2年間で、価値が150分の1に下落したことになる〕「私は西欧の通貨で払うわ」と言い、フィンランドの500マルッカ札〔エストニア独立直前の1991年3月末の換算レートで、17800円〕を1枚渡す(1枚目の写真)。「それに加えて、ジョンソン・エンド・ジョンソンのボトルを2本」。最後に、ヨハネスが、「目が見えなくなったのが、僕じゃなくてごめんなさい」と謝り、リディアは、「いいわ。でも、私の子供たちと遊ぶことは許さないから」と言う。「指はどう? 動かせるの?」。ヨハネスは、包帯でぐるぐる巻きになった中指を見せる(2枚目の写真)〔他の指は閉じて、中指だけ動かないこと示す〕。次のシーンで、ヨハンナは、賄賂と交換にフィンランドで働くことを許可した汚職官僚を訪れ、約束の “収入の4分の1” を渡す。そのあとで、ヨハンナはバナナ3本、ラピンクルタ・ビール半ダース その他をテーブルの上に並べ、「フィンランドまで息子を連れていくには、幾らかかります?」と尋ねる。汚職官僚はビールを開けて少し飲み、「資本主義の味がする」と言った後(3枚目の写真)、「やれると思うが、少し高いぞ。2万だ」と言う。「マルッカで?」。「ああ、ドルじゃない」〔約71万円〕

夜、ヨハネスが自分の机の上にDumleのチョコバーを一面に並べ、「ソビエト連邦に自由はない。特に友情には」と悩んでいると、窓ガラスに小石が投げつけられる。ヨハネスが衛星アンテナのあるバルコニーに出てみると、2つの窓の分だけ離れた遠くのバルコニーからジェナが顔を出し、「バルコニーの装置、一体何なんだ?」と訊く(1枚目の写真)。ヨハネスは、あれだけ嘘をつかれて ひどい思いをさせられたのに、非難一つせず、「衛星放送のアンテナだ」と教える。「アメリカのスパイに連絡するために使うのか?」。「アメリカ人が、何千ものチャンネルを通じて、僕に話しかけるんだ」。「お前、まだ、Dumle持ってるか?」。ヨハネスは親切に1個投げてやるが、窓に当って地面に落ちる。「お前バカか。ちゃんと投げろ」。「まだたくさんある。心配するな」。次のシーンでは、TVの部屋にジェナが座り、衛星放送を観ながらバナナを手に持っている。ジェナが、皮ごとかぶり付こうとしたので、ヨハネスは、バナナを奪うと、「食べる前に剥かないと」と言い、皮の先端を剥いて渡してやる。すると、ドアの磨りガラスからヴェラが覗き、次にはドアを開けて覗き込む。ヴェラを見つけたヨハネスは、逃げていったヴェラを追い掛け、「ヴェラ、聞いて… お願いだから、最後にもう一度遊ぼうよ」と頼む(2枚目の写真)。ヨハネスの部屋の棚の下段には、母からもらった人形2体(ゴルビーとバービー)が入っている。2人は、パパとママになって、2体の人形で遊び、仲直りする(3枚目の写真)。

次のシーン。ヨハネスは、祖母にスカーフを締められているが、何と髪が生えている。説明はないが、母が カツラを買ってきたのだろう。「ヴェラと僕は、日中眠って、夜遊んだ」。教師が、授業中に眠っているヴェラの肩を、棒で優しく叩く(1枚目の写真)。眠っているヨハネスに対しては、問題児なので、顎を棒で持ち上げる(2枚目の写真)。「ソビエトのプロパガンダでさえ、僕たちを起こしておくことはできなかった」。だから、棒がなくなってしばらくすると、また頭を机につけて眠る。「眠いので、僕らの周りの世界が ずっと早く変化していることに気付かなかった」。校庭のレーニンの像が、首に付けられたロープで倒される(3枚目の写真)。

ある日、ヨハネスのアパートを、未成年者委員会の女性が訪れる。そして、ドアを開けた祖母に、「ヨハネスのことで相談できますか?」と訊く。応じた祖父母とヨハネスの前で、女性は、「ヨハネスの問題行動は、彼の母親がいなくなると すぐに始まりました」と言う。祖父:「どんな行動です?」。「第4四半期の間、授業中、ずっと寝てました。夏休み中も、昼間 寝てましたか?」。祖母:「野原や牧草地を駆け回ってました」。ヨハネスは、「僕、夜はちゃんと寝てるよ」と言う(1枚目の写真)。そのあと、女性は、ヨハネスと一緒に寝室に行き、LEDスニーカーにびっくりし、棚の下を見て さらにびっくり。女性は、中に入っている人形の意味をヨハネスから聞くと、人形を使ってヴェラのように、ヨハネスと遊び始める。そのやりとりの中で、ヨハネスは、「僕たちには、足りないものが一杯あるけど、恋は違うよ。恋してると、呼吸する空気だけで十分なんだ」と言い出す(2枚目の写真)。それを聞いた女性は、粋なことを教える。「キスする前に、女の子の目を見るのよ。目が、キスして欲しいかどうか教えてくれる。でないと、顔を叩かれるわよ。分かった?」。ヨハネスは、真剣な顔で頷く。ヨハネスと一緒に寝室を出てきた女性は、祖父母に、「素敵なお子さんね」と言う。そこに、ヴェラとジェナが入って来る。その時のヨハネスの顔を見た女性は、祖母に、「この子は、恋してるだけ」と教える。そして、祖父母に 「ヨハネスの法的監護を正式に申し出るべきでしょう」とアドバイスする。この映画の中で、一番善良な登場人物だ。

その夜、ジェナが、遠くのバルコニーから、ヴェラと一緒に顔を出し、「そっちに行っていいか?」と訊く。ヨハネスは、「お祖母ちゃんにバレちゃった」と言い、「チャッチして」と、お菓子を投げる(1枚目の写真、矢印は飛んでいくお菓子)。キャッチしたジェナは、Dumleではなかったので、「これ何だ?」と訊く。「ごめん。Dumleはなくなっちゃった。それも美味しいよ」。ジェナがいなくなると、ヴェラが、「お人形どうなった?」と訊く。「眠ってる」。ヨハネスは、祖母に呼ばれたので、お休みを言って別れる。そして、何日後かは分からないが、ヨハネスとヴェラが野原を仲良く走っている。途中で走るのを止め、向かい合った2人。ヴェラはヨハネスの頬をさすり(2枚目の写真)、それに合わせて、ヨハネスもヴェラの頬に触れる。ヴェラ:「指、ほとんど治ったのね」。ヨハネスは、ヴェラの眼帯をめくり、「何か見える?」と訊く。「ええ、見えるわ」。そこに、装甲兵員輸送車の音が近づいて来る。上には、ジェナをはじめ 少年たちが乗っている。ジェナは、アフガン兵の扮装をした2人に向かって、「アフガン兵に死を!」と言う。その言葉で、装甲車の扉が開き、酔っ払ったソ連兵が姿を現わし、「お前たち、こいつらがソ連邦内を捜し回っているアフガンのテロリストか?」と装甲車の方に訊き、次いで、2人には 「怖がるな、上がって来い。タリンヘの道を示せ」と言う。そして、2人は装甲車に乗ってタリンに向かう(3枚目の写真)。

装甲車は しばらく走ると、燃料切れで動かなくなる。兵士は、さらに酒をガブ飲みする〔彼の異様な行動は、ソ連邦の危機に失望し、ヤケクソになったため〕。そこに、1台のタクシーがやってくる。そこから降りたのは、何と、フィンランドに行っているハズのヨハンナ(1枚目の写真)。装甲車に乗っていた子供達は、全員、タクシーの後部座席に詰め込まれる。ヨハネスは、「どこから来たの?」と母に訊く(2枚目の写真)。母は、「何も分かっちゃいないのね。いいこと、ロシア語は厳禁よ」と注意する。タリンに近づくと、道路は工事用の車両で封鎖されていて、警官がタクシーまでやって来る(3枚目の写真)。そして、助手席の窓を開けさせると、「君たちは、エストニア人かロシア人か?」と質問する(4枚目の写真)。「私たちはイングリア人、後部座席の何人かはチェチェン人よ」。警官は、運転手に、「君は?」と訊く。「タタール人」。「えらく国際的なタクシーだな。ロシアの装甲車を見なかったか?」。「1台だけ、エンストしてたわ」。タクシーは通行を許可される。

ジェナ、ヴェラが、まず、アパートに入って行くと、リディアがドアを開け、厳しい声で、2人に 「どこにいたの?」と訊く。2人が黙っていると、「返事なさい! 民兵を呼んだのよ」と言った後で、2人の服装に気付き、「また、戦争ごっこしてたの?」の、叱りつける。そこに、ヨハンナとヨハネスが入って来る。別のドアが開き、今度は祖父母が顔を見せる。リディアは、気が触れたように、「すぐ、中に入りなさい!!」とジェナに怒鳴りつける(1枚目の写真)。2人が部屋に入ると、リディアは、ヨハンナに 「もう、合意はご破算ね。明日の朝、出てって」と言う。それを聞いたヨハンナは、逆襲に出る。「リディア、最近のニュースを見てないの?」。「何のこと?」。「放り出されるのは、あんたの方になるわ。エストニアが独立したら、ソビエト軍とその家族が、真っ先に追い出されるわ」。こう嘲るように言うと、リディアのドアをバタンと閉める。ヨハネスの部屋に行った母は、床に鞄を置くと、「荷造りなさい。朝、フィンランドに発つわ」と命じる(2枚目の写真)。「それまで、部屋から出ることは許しません」。そう言うと、部屋のドアに鍵を掛けて出て行く。向かった先は、TVの部屋。そこでは、アナウンサーが 「ソビエト連邦の大統領ミハイル・ゴルバチョフが権力の座から離されました〔国家非常事態委員会が発表した声明に基づくもの〕… モスクワの街は戦車で溢れています… エリツィン〔ロシア共和国大統領〕がクーデターは違憲だと宣言しました…」と話し、3人は緊迫した事態に聞き入っている。このニュースから、この日が1991年8月19日だと分かる〔エストニアは、この混乱に乗じて、8月21日に独立し、24日にロシア共和国が独立を承認、9月6日にソ連自体が独立を承認した。ゴルバチョフの辞任によるソ連邦の崩壊は12月25日〕

3人が夢中でTVを観ている時、部屋に閉じ込められたヨハネスは、最後に一度どうしてもヴェラに会いたくて、命を賭して危険な行動に出る。外壁のコンクリート打設時の小さな溝に靴の先端を入れ、窓枠を手でしっかりとつかみながら、少しずつ右から左へと体を移して行く(1枚目の写真、右の部屋にはTV、左の部屋にはリディア)。ヨハネスが、2つの部屋を隔てる壁を何とか渡り切ると、幸いリディアはいなくなっていた。そこで、窓を開けて部屋に侵入し、ヴェラの部屋をノックする。中に入ったヨハネスは、ヴェラに手伝ってもらってドアの前にテーブルを置き、開かないようにし、背負ったバッグに入れて来たゴルビー人形のネジを巻いてオルゴールのような簡単なメロディーを流す。そして、「ヴェラ、ママは僕を西側に連れて行く気だ。ダンスしていい?」と訊き、2人で手を取り合って、踊るというよりは動き始める。一方、ヨハンナは、「荷造り済んだ?」とヨハネスの部屋に入って行くと、窓が開き、中には誰もいない。ベッドの下を見、バルコニーから下を見るが、幸い自殺して地面に倒れてもいない。ヴェラは、「初めてにしては上手ね」と言う。ヨハネスは、「初めてじゃない。伯父さんとお祖父ちゃんが教えてくれた」と言った後、伯父の言葉を思い出し、「ごめんね。だけど、両方の目をどうしても見たいんだ」と言い、眼帯をずらす。TVの部屋に戻った母は、祖父母に、「ママ、ヨハネスが逃げたわ」と報告する。「どこに行ったの?」。「リディアのトコね」。ヨハンナは、リディアの部屋のドアを叩く。出てきたリディアは、「もう、追い出しに来たの?」と生意気に訊くが、ヨハンナはリディアを押しのけ、「ヨハネスがいるのよ」と入って行く。ヨハンナは、ヴェラの部屋のドアを叩き、「ヨハネス、そこにいるの?」と声を掛けるが返事はない。リディアは逆上して、「ヴェラ、ドアを開けなさい!」と怒鳴るが、部屋の中では、ヨハネスが、ゴルビー人形の音量を上げる。そして、ヴェラの目をじっと見ると、ヴェラにキスする(2枚目の写真)。その光景が、摺りガラス越しに見えると、誰も何も言えなくなる。満足したヨハネスとヴェラは、ドアを塞いでいたテーブルをどける。外に出てきたヨハネスを、祖父母と母は感動して抱き締めるが、“悪しきソ連の代表” となったリディアは、「ここから出てって」と、冷たく言い放つ。

そして、翌朝の空港。祖父は、今生の別れとばかりに、ヨハネスを悲しそうに抱く(1枚目の写真)。それが終わると、ヨハネスは、これまで結構厳しかった祖母に抱き着く。ヨハンナは、「今度も、手ぶらでは来なかったわ」と言うと、母に封筒を渡す。中に入っていたのは、500マルッカ札。「受け取れないわ」。「一度だけ、百万長者を演じさせて。戻ったら、ただの老人ホームの掃除婦なんだから」(2枚目の写真)。そして、ラストシーンは、2人が エストニアから出て行くところ(3枚目の写真)。「フィンランドでの生活は違っていたが、人々はどこでも同じなんだとはっきりした。暮らしは変わらなかった。ソビエト連邦では、お金を持っていても買うものがなかったが、西側ではその逆だった。僕は、母を独り占めできたが、ファースト・キスの後、ガールフレンドも必要だと気付いた」。

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  エストニア の先頭に戻る         2020年代前半 の先頭に戻る